いつの頃からか自殺の名所となってしまった断崖絶壁の近くに立つ一軒の古い商店。その店を営みながら、孤独を抱えひっそりと暮らす初老の女性千代。見知らぬ訪問者たちとの関わり合いの中で、彼女の心が少しずつ変化していく姿を、千代に寄り添うような静謐なタッチで描くヒューマンドラマの秀作が完成しました。
人を活かすIターンの島としてマスコミにも頻繁に取り上げられている、島根県隠岐郡海士町全面協力のもと、絶景のロケ地を舞台に、第一線のプロと京都造形芸術大学の学生たちがタッグを組み制作した“北白川派”映画第3弾。毎年3万人もの人が自ら命を絶つ(更にその10倍もの人が自殺未遂をすると言われる)“自殺大国・日本”。この国で生きることの難しさと死ぬことの容易さ。いじめによる若者の自殺が連日マスコミを賑わしている今、人間の“生と死”の意味を真摯に問いかけます。
60歳の孤独なヒロイン森田千代を演じるのは、本作が映画『花物語』(89)以来23年ぶりの主演作品となる高橋惠子。やり場のない初老女性の複雑な心情を静かなしかし圧倒的な存在感で表現しています。また不器用ながらも都会で一生懸命に生きる弟良雄を寺島進が軽妙に演じ、物語に穏やかな空気を注いでいます。その他、72年に自身が作詞・作曲した大ヒット曲「赤色エレジー」などのシンガーソングライターとして活躍する一方、個性派俳優としても知られるあがた森魚が、最果ての地に見知らぬ人を運ぶ寡黙なバス運転手を好演。千代と良雄それぞれの心の拠り所となる重要な役、牛乳配達の青年とクラブのホステスを、撮影当時京都造形芸術大学映画学科の学生だった、深谷健人と平岡美保が力演しています。
メガホンをとるのは、実家に暮らす祖母を追ったドキュメンタリー映画『ツヒノスミカ』が、2008年度スペインの国際ドキュメンタリー映画祭PUNTO DE VISTA でジャン・ヴィゴ賞(最優秀監督賞)受賞するなど、内外で高く評価された山本起也。劇映画デビューとなる本作『カミハテ商店』でも、カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界三大映画祭に並ぶ存在としてヨーロッパで認められている、チェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭メインコンペティション部門に見事招待される快挙となりました。惜しくも受賞はなりませんでしたが、映画祭デイリーの採点表では、米ハリウッド・リポーターなど国際ジャーナリスト3名が満点を付けるとともに、平均点でもコンペ12作品№1という最高の評価を受けました。
[北白川派]とは、映画を通して新たな芸術運動の狼煙(のろし)を上げるために、京都造形芸術大学映画学科から立ち上がった一大プロジェクト。映画学科が一丸となりその全機能を駆使しながらプロと学生が共同で毎年一本の劇場公開作品を完成させて発表しています。第2弾作品からは配給・宣伝にも学生が参加。その第3弾が本作『カミハテ商店』となります。
第1弾作品:木村威夫監督『黄金花 秘すれば花、死すれば蝶』(08年公開 主演:原田芳雄・松坂慶子)
第2弾作品:高橋伴明監督『MADE IN JAPAN こらッ!』(11年公開 主演:松田美由紀)
第3弾作品:山本起也監督『カミハテ商店』(12年公開 主演:高橋惠子・寺島進)
第4弾作品:林海象監督『弥勒』(13年公開予定 主演:永瀬正敏・井浦新)製作進行中
第5弾作品:福岡芳穂監督作品(14年公開予定)企画進行中